新型コロナウイルスと糖尿病
新型コロナウイルスと糖尿病
【2020年5月28日現在】
2020年になり、新型コロナウイルス感染症は中国や日本、韓国などのアジア地域のみならず欧州や米国など世界各国で流行し、地球規模の非常に大きな社会的問題になっています。世界保健機関(WHO)は世界的な感染拡大の状況、重症度等から3月11日に新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明しました。これまでにマスク着用、咳エチケットや手洗いの徹底、外出自粛、さらに休校・休業など、多くの方々による様々な新型コロナウイルス対策がなされていますが、2020年5月現在その流行はまだ完全には収束していません。
新型コロナウイルス感染症は、飛沫や接触により感染し、2〜14日の潜伏期間を経て、発熱や呼吸器症状、全身倦怠感などの症状で発症し、感冒様症状が1週間前後持続することが多いとされています1)。
新型コロナウイルスに感染した人のうち、ほとんどの人(約80%)は特別な治療を必要とせずに回復しますが、一部では重症化し、呼吸困難になります。WHOは、高齢者や基礎疾患(糖尿病、心不全、高血圧症など)をもつ人は、重症化する可能性が高くなるため、発熱・咳・呼吸困難などの症状があれば早めに医師の診察を受けるように推奨しています2)。
日本においても厚生労働省は、高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある方は、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいため、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合はすぐに帰国者・接触者相談センターに相談するように呼びかけています3)。
それでは、なぜ糖尿病の方は一般の方より新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいのでしょうか。
糖尿病の方はなぜ重症化するのか
実は、糖尿病の方は新型コロナウイルスに限らず、気管支炎・肺炎、膀胱炎、歯周病など、さまざまな感染症になりやすく、また重症化しやすいことが知られています4)。
私も大学病院に勤務していた時に、インフルエンザ肺炎5) や壊死性筋膜炎6) 、リンパのう胞感染7) など、重症の感染症を発症した糖尿病の方の担当医となり、何日も病院にはりつけ状態になって治療したことがあります。糖尿病の方は、一般の人が通常かからないような感染症になったり、また短期間のうちに一気に状態が悪化したりすることを、身をもって経験しました。
糖尿病の方が感染しやすい理由としてはいくつかありますが、一つには糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、白血球の機能が低下することが挙げられます8)。
白血球はウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入してきた際に、それらを食べたり、抗体を作ってからだから排除したりするように働きます。この免疫にとって大切な白血球の機能が高血糖によって低下すると、免疫力が低下しさまざまな感染症にかかりやすくなると考えられています。
また糖尿病の合併症、とくに神経障害があると、感染症になっても痛みや発熱を感じにくいため重症化しやすいと言われています9)。さらに糖尿病では全身の細い血管が障害されることが多く、そのため感染した部位に酸素や栄養が十分に供給されなかったり、白血球が届きにくかったりするため感染症が悪化しやすいと考えられています10)。
では、糖尿病の方は日常生活でどのようなことに注意をしたら良いのでしょうか。
糖尿病の患者さんが注意すること
まず、風邪やインフルエンザ感染症の予防と同じように、手洗いや手指消毒、咳エチケットやマスク着用を行うこと、さらに人との接触を減らす、3つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けるなどの感染予防対策をしっかりと行いましょう11)。
また米国では、糖尿病の方はすべてのワクチンを接種するように推奨されています12)。とくに季節性インフルエンザの予防にはワクチン接種が最も有効ですので、インフルエンザの予防接種は毎年受けるようにしましょう13)。
そして、血糖値が高いほど免疫力は低下し、神経障害や血管障害などの合併症が進行するため、糖尿病の治療を適切に行うことにより、血糖コントロールを良好に保つようにしましょう14)。
糖尿病の方は、血糖コントロールが不良の状態が続くと免疫機能の低下や糖尿病合併症の悪化によりさまざまな感染症にかかりやすくなります。新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症からからだを守るために、以上のような点に注意して日常生活を送ること、また糖尿病の治療を継続し血糖値・ヘモグロビンA1cをしっかりとントロールすることを心がけてください。
看護師が教える手洗い・マスク着用・咳エチケットの動画はこちら
(参考文献)
1) コロナウイルス病2019(COVID-19)に関するWHO-中国合同ミッション報告書. 2020年2月16-24日. WHOホームページ.
2) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するQ&A. 2020年4月8日更新. WHOホームページ.
3) 新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安. 2020年5月8日改訂. 厚生労働省ホームページ.
4) Shar BR, et al. Diabetes Care. 2003;26(2):510-3.
5) Nasu T, Ogawa D, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2010;182(9):1209-10.
6) Ogawa D, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2003;60(3):213-6.
7) Ogawa D, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2003;61(2):137-41.
8) 斧康雄. 糖尿病と好中球機能異常. 日本化学療法学会雑誌. 2016;64(5):735-41.
9) Currie CJ, et al. Diabetes Care. 1998;21(1):42-8.
10) Koh GC, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2012; 31(4): 379-88.
11) 人との接触を8割減らす、10のポイント. 2020年4月22日. 厚生労働省ホームページ.
12) Vaccines and Diabetes. 米国糖尿病教育者協会(American Association of Diabetes Educators)ホームページ.
13) Flu and Pneumonia Shots. 米国糖尿病学会(American Diabetes Association)ホームページ.
14) Pearson-Stuttard J, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4(2):148-58.